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海外の旅

海外の旅の話 その9 モスクワのお土産


2022.09.26海外の旅


ロシアでは、ちょっと変わったものを買いました。

 

モスクワのお土産物屋に立ち寄ると、有名なマトリョーシカなどが並んでいました。マトリョーシカは、伝統的な娘さんの絵柄のもの以外にも、ゴルバチョフやらエリツィンやらの絵柄のものなどがありました。そういった品々を眺めていて、ふと壁を見ると、軍服がかかっています。見た感じ、海軍の上着のようで、肩章もついています。帽子もあります。キラキラ具合は大尉ぐらいの趣きです。以下、大尉服と称します。

 

私は興味を持ち、この大尉服は売り物かと店員に尋ねると、売ってもいいよ、とのこと。値段を聞くと、100ドルなら、とのこと。ちょっと迷いましたが、革コートを盗まれた私は何か服が欲しかったし、こんな機会は滅多にありません。思いきって購入しました。なお、水兵服もあったので、2着セットで買って値引きしてもらいました。

 

舞台は飛んで、ツアー最後の夜。私たちはハバロフスクに戻り、最後の夜のディナーに出かけました。盛りだくさんのツアーの最後の夜です。何かしたくなります。私は、購入後スーツケースにしまい込んでいた大尉服を引っ張り出し、着こんで出かけました。最後ということで、メンバーのテンションは否が応でも高まります。ウオッカのボトルが空いていきます。大いに盛り上がっているさなか、店員が私を呼びます。地元客から、なぜ日本人がロシアの軍服を着ているのだ、とクレームが入ったそうです。酒の席でロシア人とトラブルになるのはまっぴらごめんです。私はそそくさと上着を脱ぎ帽子を取り、何事もなかったかのようにウオッカの宴の席に戻りました。上着を脱いだため、ウオッカで体温を維持する必要が高まりました。その結果、どうやって寝たのか、はっきりしません。

 

翌日、帰国のためハバロフスクの空港に着きました。当然、荷物検査があります。二日酔いの頭を抱えた私は、そこではたと、やばいな、これ没収されるかもしれない、と気づきました。不安がよぎりますが、今さらどうしようもありません。文句を言われても、いくらか払えば勘弁してもらえるかも。運を天に任せて荷物検査を受けます。すると、何も言われず通過できました。この時の安堵感、大きかったです。

 

ロシアを後にした私たちは、新潟空港に戻ってきました。空港から新潟駅までは、リムジンバスでの移動です。大尉服を死守した私は、もう大丈夫だということで、さっそく着替えて乗り込みます。無事日本に帰ってきてホッとしたメンバーは、バスの中でおおいに盛り上がりました。

 

下車の際、運転手から、君たちは何者かと聞かれました。ツアー客ですが、と答えると、格好も変だし素行も変だし、てっきり旅芸人の一座かと思ったとのこと。

 

人生で、旅芸人の一座に間違われることなど、そうそうありません。私たちはさらに気を良くします。新潟駅の待合室では、他のメンバーが待っているところに、上官の体で私が入室し、他のメンバーが敬礼で迎える、という小芝居を打ちました。善良な新潟市民は、どうリアクションを取ったらいいのかわからず、大いに困惑しています。かわいそうに。

 

さらに気を良くした私は、そのままの格好で新幹線に乗り込み、東京に向かいます。しかも、何の必要もないのに、弟に電話して、荷物が重いとか何とか言って、東京駅に迎えに来るよう伝えます。新幹線が東京駅に到着します。私は普通に改札を出ました。何も知らない弟は、私が現れないことに困惑しています。その様子をしばらく堪能してから、おもむろに正体を明かします。弟はおおいに驚きます。てっきり新幹線の乗務員だと思ったとのこと。

 

実家が見えてきました。玄関先には、ちょうど来ていた大叔母が迎えに出てきています。しかし、大叔母は、弟には声をかけるものの、私には声をかけません。どうしたことかと思いつつ、家に入って帽子を脱ぎます。大叔母は、そこで初めて私に気付きました。私を迎えに行ったはずの弟が、なぜか知らない外人さんを連れてきた、外人さんだから日本語はわからないだろうと思った、とのこと。なかなかユニークな発想です。とはいえ、あまりお年寄りを驚かせてはいけませんね。

 

水兵服は、サイズが小さかったのでお蔵入りし、やがて人に譲りましたが、大尉服はちょくちょく着て出かけました。電車内で私と目が合った男の子は、「ママ王様みたいだね」と素直な感想を口にして、隣のお母さんに「しー!」と注意されていました。夜の千葉県南部の路上では、車が必要以上に大きく避けてくれました。革コートを盗まれた代わりに大枚はたいて手に入れたものですが、十分元は取れました。

 

大尉服は、今でも実家にあるのですが、最近甥っ子が興味を示しているようです。彼は、私が大尉服を入手した時と同じような年齢です。血は争えませんね。

 

 

続く

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