グァテマラでは、よくアメーバ赤痢に罹っていました。
【アメーバ】【赤痢】という字面からは、恐ろしい病気のように思えますが、実際には、強めにお腹を壊した、くらいの病気です。もちろん「赤痢」である以上、腸へのダメージは大きく、「ああ・・来た・・」という時の絶望感はかなりのものがあります。体力も奪われます。しかし、何日か薬を飲めば下痢は治まります。
しかし、この薬が相当身体にこたえます。アメーバ赤痢自体のダメージより、薬を飲み続けることから来るダメージの方がきつい、とも思えるほどです。この薬は胃への負担が大きく、物を食べるのがしんどくなります。でも、体内の菌を殺すには、1週間(もっとだったかな)薬を飲み続けなければなりません。なので、胃が食べ物を受け付けない状態が1週間は続くわけです。お粥などの消化に良いものを作って食べはしますが、体力は落ちます。熱帯の日射しを受けて歩くのはしんどいので、少しの距離でもバイクに乗ります。バイクも、ふらふらしながら運転します。交通量が少ないから何とかなりますが、まあ危ないです。
だからと言って、薬を飲まないでいると、なかなか治りません。お腹を下した状態がずっと続きます。アメーバ赤痢に罹るたびに、薬を飲むか飲まざるか、毎回悩むわけですが、バイクで村に行っている途中にお腹が下ってくるのは困るので、基本的に薬は飲んでいました。それでも、村で煮沸消毒していない水を飲んで、さらにお腹を壊したりしていたことは、以前書いたとおりです。
薬以外にも、注射で治す方法があります。私も、最初にアメーバ赤痢に罹ったときは、注射を打たれました。グァテマラに着いてまだ1か月も経っていない語学研修中で、アンティグアという街の地元のクリニックで診察を受け、そのまま注射を打つことになりました。
注射器を見ると、漫画みたいに太い!あんな太いの、どこに打つんだろう・・・戦々恐々としていると、医師から、はいズボン下ろしてうつ伏せになって、との指示。お尻なわけです。医師によると、強い薬を大量に筋肉注射で体内に入れるので、筋肉量の多いお尻が適している、とのことです。私は、覚えている限り、お尻に注射を打たれたことがなかったし、うつ伏せになっていて見えませんので、うわ、この後どうなるんだろう、とびびっていました。目を閉じていると、医師は手慣れた感じで、ぶすっと針を刺し、ぐいっと押し込んできます。相当痛いです。そして長いです。たぶん少し叫んだと思います。大丈夫すぐ終わるよ、みたいなことを言われて、注射は終わりました。
この注射は、それ自体が私の身体にとって革命的な出来事であり、注射前後の身体の感覚が劇的に異なったため、効きめがあったかどうか、よくわかりませんでした。ただ、1週間程度、注射された部分が強く痛んでいました。お尻が痛いと、座るのも歩くのも立っているのも寝るのも、あらゆる動作がしんどいということを、このとき知りました。
それはともかく、アメーバ赤痢への感染については、私はまだマシな方です。自炊していましたので。自炊すれば、菌が入っていないであろう食事をとることが出来ましたので。隊員の中には、配属先の施設で生活していて、3度の食事は給食、という人もいました。これでは逃げ場がありません。1年のうち300日以上はアメーバ赤痢の薬を飲んでいるとのことでした。たしかに、グァテマラ赴任当初と比べると、だいぶげっそりした感じになっていました。彼が任期を全う出来て本当に良かったです。
最初の頃は、体調不良になっても、アメーバ赤痢なのかどうなのかわからなかったのですが、そのうちに、ああこれはアメーバ赤痢だな、やっちゃったな、とわかるようになりました。薬はそこらへんでは売っていないので、アメーバ赤痢だと判断した場合、カミオネタで首都に行き、ダーツ打ちのサモラ先生の診断を受けて、薬を処方してもらわなければなりません。カミオネタ内でも、痛むお腹が暴れ出さないよう、カミオネタが故障せず時間通りに首都に到着するよう、全身全霊で祈ります。また、薬をもらうためだけの上京は面倒なので(そうでなければついでに美味しい物食べたりできます)、多めに薬を処方してもらいます。それで、薬のストックがある場合には、上京せずに済みます。ただ、アメーバ赤痢でないのにアメーバ赤痢の薬を飲むと、身体に与えるダメージが大きいので、自己診断を間違うと大変です。しかし、うまいこと出来てます。わかるようになるんです。
現地の人はどうしているの?と疑問に思った方もいるかもしれません。そうですよね。私も不思議でした。みんな大して衛生面に気を遣っていないのに、どうして大丈夫なんだろう、と。この疑問は、村人が濁った川の水を手ですくって飲んでいるのを見ているうちに解けました。アメーバだろうがなんだろうが、そこらへんの菌を口にしても大丈夫な免疫機能を獲得した人だけが、現に生き残っているわけです。グァテマラの乳幼児死亡率は極めて高いのですが、生まれてすぐ、過酷なサバイバルに身をさらされているからなのでしょう。
続く