ケツァルは、グァテマラの国鳥になっている鳥です。私は鳥に疎いので、分類など生物学的なことはわかりませんが、非常に美しい鳥として有名です。
どこが美しいかと言うと、オスの尾の飾り羽です。オスの体全体は光沢のあるエメラルドグリーンとコバルトブルー、胸から腹にかけては鮮やかな赤、尾羽根のうち根本部分は白、尾羽根のうち長い飾り羽はエメラルドグリーン、という配色です。
ケツァルは、アステカやマヤの神ケツァルコアトルの使いとされ、その美しい羽毛は王などの装飾品に用いられてきました。その装飾品としての価値の高さから、やがて乱獲されて個体数が激減し、今では絶滅の危機に瀕しています。
グァテマラでは、ビオトポ・デ・ケツァル(略してビオトポ)という自然保護区などに、辛うじて生息していますが、その姿を見るのは非常に難しいとされています。このビオトポが、私の住んでいたサラマに比較的近かったため、一度ダメ元で訪れてみました。
ケツァルを見るチャンスがあるとすれば早朝だ、と言われていました。それで、夜明けごろに自宅を出てビオトポに向かいました。ビオトポの中には散策コースもあるようですが、着いたのは早朝で、まだオープンしていないと思われました(どうせ警備員はいないでしょうから、入口を突破することもできたかもしれませんが)。それで、私は、ビオトポの脇を通る国道の路肩で、ケツァルの出現を待つことにしました。
朝陽を浴びた森が輝き、たくさんの鳥の鳴き声が響く空間は、少々肌寒いものの、とても居心地の良いものでした。国道とは言え山の中、しかも早朝、車は一台も通りません。私はのんびりと座っていました。しかし、当然ながら、ケツァルは現れません。そりゃそうだよね、国道だもん、わざわざ人目に付く所に出てくることないよね、などと思いながら、ぼんやり待っていました。
やがて日差しが力を帯びてきました。肌寒さも和らぎ、時は朝から昼に移っていきます。まあ今日は下見できたからいいや、そろそろ帰ろうかな、などと思っていた矢先、突然ケツァルが目の前に現れました。
朝陽を浴びて輝く緑色の体。お腹の赤が強烈なコントラストになって印象付けます。そして思っていたよりはるかに長く、ひらひらとたなびく尾羽根。ケツァルは踊るように、まるでその美しい体を私が堪能できるように、左右に旋回した後、ふっと消え去っていきました。時間としては、ほんの一瞬の出来事だったと思いますが、強く脳裏に焼き付きました。
私は最初、幻でも見たような気持ちでポカンとしていました。しばらくして、いや幻ではない、確かにケツァルを見た、と思えてくると同時に、とても嬉しくなりました。その日そのあと何をしたか全く覚えていないのですが、幸せな気分で過ごしたのでしょう。
ケツァルは、グァテマラの通貨単位でもあります。補助通貨単位はセンタボで、100センタボ=1ケツァルです。ケツァル紙幣の種類は多く、0.5ケツァルが茶色、1ケツァルが緑、5ケツァルが紫、10ケツァルが赤、20ケツァルが青、50ケツァルがオレンジ、100ケツァルがセピア色と、カラフルです。
しかし、鳥の方とは違って、紙幣の方は傷んでいて美しくないものが多く、とくに0.5ケツァルや1ケツァルあたりは、よれよれ、ぼろぼろ、泥まみれ、みたいなのが多かったです。お店によっては、あまりぼろぼろな紙幣は受け取ってもらえないので、なるべくボロボロ札の在庫を抱えないように注意していました。
まず、あまりボロボロなのは受け取らないようにします。例えば、市場でマンゴーなどを買って3ケツァルぐらい支払うとき、10ケツァル札を出すと、ボロボロの1ケツァル札を何枚も受け取らざるを得ないリスクがあります。なので、なるべくお釣りの出ないようにきっちり支払うか、10ケツァル分買うようにします。
少額の買い物で20ケツァル札以上出すと、お釣りがないと言って、受け取ってもらえないことがある点、それはそれで要注意です。
不幸にもボロボロ札を受け取ってしまった場合は、市場など、文句を言われなさそうな場所ですぐ使います。首都のちょっといい飲食店とかだと、受け取ってもらえないリスクがあります。同じ首都でも、マクドナルドとかだと大丈夫かもしれません。レジの女の子に思いっきり睨みつけられると思いますが。
硬貨も多く、1・2・5・10・25・50センタボ、1ケツァルとあります。1・2・5センタボ硬貨は、首都グァテマラシティのスーパーで買い物をすると、お釣りでもらったりします。田舎では、少額硬貨の流通がないので、スーパーで買い物をして計算上2センタボのお釣りが発生したとしても、お釣りをくれないか、多めにお釣りをくれるかするので、使う機会はほぼありません。
協力隊員の歓送迎会に、在グァテマラ大使館の偉い方が参加されたことがありました。その偉い方は挨拶のなかで、自分はジョークが好きだと言って、「俺実はケツァル持ってるんよ」「んなわけあるかい」「いやホントだって」「嘘つけ」「ホントホント、ほら見せたるわ」と言って胸ポケットから1ケツァル札を取り出す、という、大勢の前で披露するには余りにもリスキーな小咄を披露されました。その場が凍りついたことは言うまでもありませんが、ただ一人、「いやー久しぶりだねこういうのー」とよく通る声で言い放ち、ただちに皆に取り押さえられた婦人子供服隊員、今でも大好きですよ。
続く