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グァテマラよもやま話

グァテマラよもやま話 その9 カミオネタ、壊れる


2021.04.15グァテマラよもやま話


私の住んでいたサラマは標高1000メートル弱でしたが、標高1500メートルぐらいの首都グァテマラシティに行くには、いったん標高1300メートルぐらいの峠まで上り、そこから標高200メートル弱の盆地まで下り、さらに標高1500メートルぐらいの高原まで上る、というルートを通ります。基本ぼろいカミオネタにはかなりの負担で、当然故障もします。

 

カミオネタの故障は、パンクが多いです。そもそもカミオネタ自体ぼろいのもありますが、カーブが多い、未舗装路は石ころや穴ぼこで路面がガタガタ、舗装路もアスファルトが傷んで穴ぼこだらけ、そのくせ減速しない、といった原因で、タイヤへの負荷が大きいのでしょう。エンジンのオーバーヒートも多いです。これは、山岳地帯ではアップダウンが激しく、エンジンへの負荷が大きいことが原因と思われます。

 

窓が開かなくて暑苦しい、開いた窓が閉まらずに寒い、雨が降りこんで濡れる、といったことは故障のうちに入りません。あ、当然ですが、エアコンなどありません。リクライニングもありません。トイレもありません。照明はあったかもしれませんが、どうせ薄暗いし、車内で文字を読むことがなかった(激しく揺れるのでとてもじゃないけど読めない)ので、覚えていません。もともとない設備の故障はありません。

 

パンクの修理は、予備のタイヤに交換するだけなのですが、悪路や斜面でパンクした場合(パンクするぐらいなので大抵路面は劣悪)、作業は簡単ではありません。しかし、立場的に運転手が偉いことになっているのか、作業は車掌のみで行うこともしばしばで、時間がかかります。ちなみに、スペイン語で車掌をアジュダンテと言い、助ける、補助する、という意味のアジュダールという言葉から派生していると思われます。運転手からしたら、助手とかを超えて使いっ走りぐらいの感覚なのかもしれません。

 

エンジンがいかれた場合は、冷却水を入れ替えて待つしかありません。単純なエンストであれば、何回か押しがけを試みます。大型バスを熱帯地方の悪路や斜面で押しがけするわけですから、それはもう乗客みんなで協力することになります。しかし、女性は割と見ているだけです。カミオネタから下りようともしないおばぁもいたりします。なんだかなぁと思いつつ、男どもに交じって押しがけをしていました。

 

もう少しスピードを抑えて運転すれば、パンクもエンジントラブルも防げるし、はるかに時間と労力の節約になるのに、と思うのですが、運転手は、フロントガラスに飾った〈Dios me Bendiga〉(神のご加護を)とか書いてあるペナントの効果を信じてか、アクセルを緩めようとしません。

 

一度、運転席のすぐ後ろの席に座っていたとき、激しいスコールが始まり、いやぁ大雨だなぁ、傘ないなぁ困ったなぁ、などと思いつつぼんやりしていたのですが、どうも風景に違和感があります。何だろう何だろうと考えていて、ふと気づきました。ワイパーが動いておらず、フロントガラス越しに前方がよく見えません。しかし、運転手は一切ひるむことなく、運転席横の窓から顔を出して前方を確認しつつ、いつもより多めにクラクションを鳴らしながらぶっ飛ばし続けました。「死」を感じた瞬間でした。

 

「死」といえば、民家もないような山の中で、乗っていたカミオネタが渋滞にはまったことがありました。しばらく進むと、普通車が別のカミオネタと衝突していて、普通車の運転席に一人、フロントガラスを突き破って数メートル先の路上に一人、亡くなっている現場を通り過ぎました。あぁお気の毒に、事故って怖いな、などと思っていると、事故現場を通り過ぎた瞬間、時間回復を目指す私のカミオネタが、上り坂の頂上付近で対向車線にはみ出して二重追い越しをするではありませんか。おーいやめてくれー、たった今死体2つも見たばかりじゃないかー、と心の中で叫びましたよ。

 

フロントガラスといえば、カミオネタではなくてマイクロバスの話ですが、やはり運転席のすぐ後ろの席に座っていたとき、どうも前方の風景がぼやけています。よく見ると、フロントガラスがなく、透明のビニールシートを張っていることに気づきました。最近コロナで受付カウンターにビニールシートが張ってあることがありますが、あんな感じです。近郊のガタガタ道をのんびり走る路線だったので、別に危険ではなかったのですが、大胆だなぁと思ったことを覚えています。

 

カミオネタの故障頻度はかなり高いのですが、何故かオーディオが壊れたのを見たことがありません。そのことに気付いてから、他の協力隊員にも聞いて回ったのですが、やはりオーディオが壊れた場面に遭遇した人はいませんでした。

カミオネタの車内では、徹頭徹尾大音量で音楽が流れています。音源はFMかカセットテープ、ジャンルはサルサやメレンゲなどの縦揺れのダンス音楽か、あっちの歌謡曲的なもの。私は当時、ジャズかクラシックを好んで聴いていたので、ただでさえ体力を消耗するカミオネタでこういった音楽を何時間も大音量で聴かされるのは拷問に等しく、あーあスピーカー壊れないかなーといつも思って(願って)いました。しかし、もともと頑丈なのか、運転手がオーディオだけはしっかりメンテナンスしていたのか、ただの一度も壊れたことはなかったです。

仕方なく寝ようとしても、激しい揺れや暑さ寒さで眠れず、最後まで音楽が耳に飛び込んできていました。おかげで今でも、当時よくかかっていた曲のフレーズが、ふと頭をよぎることがあります。

 

続く

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