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海外の旅

海外の旅の話 その20 セブに溶け込む


2023.01.29海外の旅


セブは、フィリピン有数の都会で、人も車も多く、市街地の面積も広いです。台風は去ったとは言え、基本曇り、時々スコールという天気のなか、私は、トゥクトゥクや小型の乗り合いトラックを駆使して、適当に街を巡っていました。

 

乗り合いトラックは、荷台を座席に改造してあり、横長一列のシートが向い合せになっていて、天井代わりに幌が付いています。小柄なフィリピン人にとってもなかなかに狭く、乗客は密着して座ります。蒸し暑いなか、乗客たちと密着してガタガタ揺られる様は、グァテマラのカミオネタを彷彿とさせます。

 

乗り合いトラックに慣れてきたころ、座りながらうとうとしたことがあります。降りる直前に目が覚めて、ぼんやりしたまま下車しました。しばらくして、何か買うために財布を開けると、財布の中身が足りません。人生で初めてのスリ被害です。これは大変!

 

しかしどうも変です。高額紙幣は抜かれているものの、低額紙幣と小銭は抜かれていません。スリは、全部盗ると私が困ると思ったのでしょう、少し残してくれたのです。優しいじゃないですか。

 

そうは言ってもがっかりなことで、街歩きの意欲が薄れます。もともと、これと言った観光地もありません。私は、ミュージックバーの従業員やその友達と一緒に過ごすことが増えていきました。例えば、開店前の時間に、大型ショッピングモールに連れて行ってもらいました。日本とさほど変わらない規模のショッピングモールで、それなりに高い値段の日本でも買えそうな商品を見たり、フードコートで日本にもありそうな食べ物を食べたりするのは、それまでの私の旅にはなかったことでした。そこには、特別貧しいわけではないフィリピン人たちの生活がありました。途上国ということで、貧しい暮らしにばかり触れるイメージだった私には、とても新鮮でした。

 

もちろん、貧しさを感じることもありました。それは、セブ郊外にある、その人の親戚の家に連れて行ってもらったときのことでした。掘っ立て小屋のように簡素で、ニワトリが地面を駆け回っている家。どんな仕事をしているのか、そもそも仕事があるのか、詳しく話を聞かなかったのでよくわかりませんでしたが、あまり楽しそうな表情はしていませんでした。

 

逆に、ものすごく楽しそうだったのは、ミュージックバーのすぐ裏にある美容室に集う人たちでした。店主がミンダナオ島出身のゲイで、お客さんもどうやら皆さんゲイのようでした(少なくとも店主はそう言っていました)。この人たちは、いつも陽気に笑っていて、けっこうぐいぐい来られましたが、単にコミュニケーションが取りたい、という感じで、口説かれるようなことはありませんでした。

 

ある時、わいわいしている皆さんと一緒にいると、物売りが通りかかりました。「バローッ」と言う掛け声をかけて練り歩いています。あれ何?と聞くと、彼らの一人が物売りを呼び止めて、ひとつ買ってくれました。見ると、卵です。ひょっとして、孵化する直前のアヒルの卵?

あー要らんこと聞いちゃったな。買ってくれた人は、殻を割って中を見せてくれます。想像していたとおりの中身です。私の困惑した表情を見て、とっても嬉しそうな彼。このまま食べるんだよ、美味しいよ、と煽ってきます。どうしよう。でも食べるしかないな。えいっ。食べました。口の中に広がる未知の食感、そして喉越し。無意識に舌の感覚を閉ざしていたのでしょう、味はまったく覚えていませんが、食べ切ったという達成感はありました。

 

街中でカラオケの看板を多く見かけました。フィリピンのカラオケがどんな感じか興味を持ったので、連れて行って欲しいとお願いしました。一瞬、変な空気になったのですが、行きたいならいいよ、ということで、何人かに付き合ってもらいました。店に入ると、照明は暗く、露出の多い女の子たちがテーブルについていて、誰かを選び、別室に移動して別料金を支払うシステムのようです。私のグループには女の子もいて、そのことでだいぶ変な空気になりました。

 

しまった。そういうことか。私を連れて行くのにみんなが躊躇したのも当然です。私はみんなを連れてすぐに店を出ました。そして、そんなつもりで来たかったわけじゃない、日本のカラオケは全然違うんだ、などと必死に言い訳。とりあえず、私が知らずに行ってみたことは理解してもらえました。ともあれ、どんなところかわかってよかったです。

 

ミュージックバーの客に、酔っぱらって、日本人がなんでこんなところにいるんだよ、などと絡まれたこともありましたが、大事には至らず、セブではおおむね愉快に過ごすことができました。最後に、ホテルの部屋で何名かで送別会をしてくれました。皆さんお酒はほとんど飲みませんでしたが、とても楽しくおしゃべりしてくれて、名残惜しい時間を過ごしました。

 

 

続く

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