私は南に向かい始めました。目的地は、ガーナ第2の都市クマシです。
クマシはアシャンティ王国の首都として栄えた町で、ケンテの本場と聞いていました。ケンテとは、ガーナの男性が着る、一枚布をサリーのように身にまとった民族衣装です。最初に訪れた村でも、村人が来ていた民族衣装の鮮やかさに心を奪われていたエスニック好きの私です。ガーナに来たからにはケンテの1枚ぐらい買って帰らなければ、ということで、クマシでケンテを物色しようと考えたのです。
幹線道路なのでしょうか、舗装された広い道をひたすら走ります。所々アスファルトが剥がれて穴ぼこが空いているのはご愛敬。バスは構わず全速力で進みます。途中、ヤギに衝突しました。あのヤギは誰かの食料になったのでしょうか。
南下するにつれて、空気はだんだん湿り気を帯びてきます。やはり湿っている方が落ち着きます。乗り換え時や休憩時間には、屋台で地元の食べ物を食べたり、その辺をうろついている子供たちにちょっかいを出したりしながら、丸一日かけてクマシに着きました。
着いたのは午後遅い時間。この日は買い物は諦めて、適当に宿を決めた後、どこかで何か食べようと町なかに出ました。
ぶらぶらしていると、炭火焼の屋台を見つけました。普通に肉が並べてあるなか、動物の頭蓋骨が目を引きます。これは何かと尋ねると、ヤギの頭とのこと。しかし肉はほとんどついていません。脳みそを食べるとのこと。かなりの難易度と思いましたが、これも出会い。思い切って購入します。食べてみると、非常にまろやかで、美味しい。値段は屋台にしてはお高めですが、許容範囲内です。
気を良くした私は、さらに飲み歩こうと散策を続けます。やがて、目についた店のテラスに席を取りました。ビールを頼んでグラスに注ぎ、飲み始めると、一人の男に話しかけられます。ずいぶん派手な格好をしていて、アクセサリーもじゃらじゃら付けています。部下っぽい男も控えています。そこまで悪いことはしていない地元の不良、といった風情です。
少し会話をした後、彼は私に踊りかけてきます。アクラの市塲のお兄ちゃんを思い出します。こういうコミュニケーションって、ガーナでは普通なんでしょうかね。やむを得ず私も席を立ち、適当に踊り返します。すると、ここでも私は気に入られたようで、ひとしきり踊った後、彼は私を抱きしめ、キスをしてきました。なお念のため、唇ではなく、頬です。また、私の同意はありません(今ちょうど、女子サッカーのワールドカップにおけるスペインサッカー連盟会長の行為が問題となっているため、言及しました)。
彼は私に、明日も会おう、何時にここに来い、絶対に来いよ、と言い残して、お供を引き連れ、周囲の人たちには、何見てんだよ、みたいなことを言いながら、立ち去りました。
私はというと、そのまま宿に引き上げてすみやかに眠りにつき、翌朝早い時間にバスターミナルに赴き、南行きのバスに乗っていそいそとクマシを後にしました。私にとって、ケンテ購入はもはやどうでもよく、彼との再会を回避することの方がはるかに重要だったのです。
続く