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海外の旅

海外の旅の話 その35 アルハンブラの思い出


2024.01.19海外の旅


セビージャを後にして、コルドバに向かいます。

コルドバでは、有名なメスキータを訪れました。メスキータとは、スペイン語でモスクの意味ですが、固有名詞としては、カトリック教会に属するコルドバの聖マリア大聖堂を指します。メスキータは、もともと後ウマイヤ朝時代に建設されたモスクに、レコンキスタの時代にカスティーリャ王国が礼拝堂やカテドラルを新設して、カトリックの教会に転用されました。

 

イスラム教とキリスト教の両方が混ざった、非常にユニークな宗教建築物であり、イスラム教とキリスト教が覇を競い合ったイベリア半島の歴史を象徴するように感じました。建築物としても非常に美しく、興味深いです。キリスト教勢力が覇権を誇示したいのであれば、イスラム教の象徴であるモスクを取り壊して、その場所にカトリック教会を建設するのがわかりやすいのでしょう。しかしそうしなかったのは、どうしてでしょうか。もともとのモスク自体が美しく、取り壊すのは忍びなかった、ということもあるでしょう。また、王朝が変わっても、地域にはイスラム教徒が残り、キリスト教徒と共生していきます。モスクを取り壊してしまったら、地域のイスラム教徒の恨みを買うことは間違いないでしょう。しかし、旧王朝の象徴である建物を、そのまま残すわけにもいきません。そういった諸々の配慮から、キリスト教会施設の増設、という手法が取られたのかもしれません。

 

でも、例えば、金閣寺のお堂のなかにキリスト教会の礼拝堂があったら、私ならものすごく違和感を覚えると思います。現地の人は見慣れているでしょうし、異教徒には宗教的な意味合いを強く感じられないので、そんなに違和感はないのでしょう。しかし、熱心なイスラム教徒やキリスト教徒から見た場合、どうなのでしょうね。

 

散策中、パエリアを食べました。パエリアはバレンシア地方の郷土料理ですが、アンダルシアの強い日差しを浴びながら戸外で食べるパエリアは、日本とは違った味わいがあります。

 

コルドバを後にして、グラナダに向かいます。

グラナダには、有名なアルハンブラ宮殿があります。アルハンブラ宮殿は、小高い丘に建てられた一群の建築物で、イスラムのナスル朝の王宮や要塞などを基にして、レコンキスタ以降キリスト教の様式で様々な増改築がなされています。メスキータ同様、異なる宗教の建築様式が混ざったユニークな建築物で、その空間にいることがまったく飽きません。

 

この宮殿内に、パラドールという宿泊施設があります。パラドールは、古城を改装するなどして趣を出しているホテルで、要するにアルハンブラ宮殿に宿泊できる、ということです。ホテル内はまさにお城のような造りで、レストランもあり、非常に雰囲気があります。ここに何泊も出来れば、まさに王侯貴族のような気分を味わえるのでしょう。短い休暇しか取れない日本人の私は、残念ながら一泊しかできませんでしたが、それでも十分楽しめました。

 

グラナダのアルバイシン地区は、アルハンブラ宮殿の隣の丘にあり、アルハンブラ宮殿の夜景を眺めることができます。それはそれで美しかったのですが、お目当ては別。アルバイシンには、岩肌をくり抜いた洞窟型のタブラオがいくつかあります。そのひとつでフラメンコを観ました。

 

洞窟だけあって、奥行はそれなりにあるものの、天井は低く、横幅は狭く、踊り手や奏者との距離が非常に近いです。結果、臨場感がすごいです。派手な顔を濃いメイクでさらに派手にしたお姉さんが、ボリューミーに踊ります。それに混じって、そのへんのおばさん、ひょっとするとおばあさん、といった風情の踊り手が、きびきびとはしていないものの、どこか枯れた味わいの踊りを披露します。フラメンコがもともと観客に見せるためのエンターテインメントではなく、身内の集まりで盛り上がったときに各自が披露する民族舞踊であることを思い出させます。

 

しかし、何よりも驚いたのは、伴奏のギタリストの顔。鼻はどこまでも高く、顔の幅は狭く、眼と口は大きく、顔面に余白なし。そこへ黒い縮れ毛を長く伸ばして、見るからにヒターノ(ジプシー)といった風情で、ものすごい迫力です。日本人的な顔と真逆の造形は、同じ人間とは思えませんでした。顔の迫力のせいか、この時聴いたギターの伴奏がいまだに頭から離れません。

 

 

続く

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