クラクフから夜行列車に揺られ、翌朝ブダペストに着きました。
ブダペストは、ドナウ川を挟んで、ブダ、ペストという二つの街に分かれています。ドナウ川はかなり川幅があるので、橋がかかるまでは、両岸はそれぞれ独立した街として発展していた、ということなのでしょう。
二日続けての夜行列車での移動、丸一日アウシュビッツ見学、とくると、さすがに疲れます。しかも到着した日は曇りで肌寒く、観光する意欲もイマイチわきません。そして、ハンガリーは温泉大国。ということで、宿を探して荷物を降ろし、さっそくゲッレールト温泉に向かいます。
セーチェーニ温泉という、ヨーロッパ最大級の複合温泉施設も有名で、ものすごく広い屋外温泉で人々が何時間もチェスをしたりしながら過ごす写真も見て、興味がありました。しかし、そういった温泉は湯温が低いので何時間も入っていられるわけで、肌寒いその日にはあまり魅力を感じず、やめました。
ゲッレールト温泉も、ブダペスト市内にいくつかある温泉のひとつです。アールヌーボー風の内装とブルーのタイルが敷き詰められた浴槽の写真に魅かれました。中に入ると、高い天井、きれいな内装はまるでお城。ハンガリーの温泉は水着着用なのですが、持っていないので受付で借ります。渡されたのは、ふんどしに似た、心許ない代物。これどうやってつけるの?と思い、周囲を見回してつけている人を探します。うん、要はふんどしだな。ということで、ふんどしのように装着し、いざ入浴。思ったより湯温が低い。いい湯だな、とはなりません。逆に身体が冷えそうで、うろうろ歩き回ります。天井が高いこともあって、湯気がこもっていません。温泉気分は味わえませんでしたが、今にして思えば、日本の温泉と比べず、そういうものだと割り切っていたら良かったのでしょうね。それでも物珍しく面白かったです。
今あらためて調べると、他にももっと湯温の高い温泉があったようです。そういった温泉巡りをすればよかったのかもしれません。しかし、ふんどしのブレーキ効果でしょうか、温泉はこの一か所で終わりました。
さて湯上り。ビールもいいですが、ハンガリーはワインも有名です。
私は以前たまに、トカイワインを買って飲んでいたこともあり、ワインも楽しみにしていました。ちなみにトカイはハンガリーの産地の名前で、ブドウにつく菌の作用で糖度が高い、貴腐ワインの一種です。味はかなり甘いのですが、酸味もある程度あって口当たりがべったりせず、いろいろ飲んだ締めに少量をちびちび飲む用の、ご馳走ワインです。締めで飲む甘いお酒というと、イタリアのリモンチェッロがありますが、リモンチェッロはウィスキー並みにアルコール度数が高いのと比べると、トカイワインはそれほどアルコール度数が高くない分、締めにぴったりと私は思っています。
しかし、せっかくハンガリーに来たので、飲んだことのないものを、ということで、白ワインをいくつか試しました。トカイワインのイメージが頭にあるせいか、思ったよりあっさりして、酸味が強いように感じました。これはこれで良し。
あわせるハンガリー料理ですが、有名なのはグラーシュ。最近はグヤーシュと呼ぶようですが、以前は海外の小説の翻訳などでグラーシュと表記されていました。肉と野菜のシチューで、パプリカを使うため鮮やかな赤色をしています。赤いのですが、唐辛子は入っていないので、まったく辛くないです。美味しいからなのでしょう、ドイツやオーストリアといった周辺諸国でもポピュラーなのですが、やはり本場のハンガリーで食べないわけにはいきません。ということで試します。もともと煮込み料理は好きなのは差し引いても、さすが本場のグヤーシュ、美味しかったです。
民族舞踊団のステージも観ました。大学時代に東欧の民族舞踊をやっていて、昔旅したスウェーデンの雑貨店でハンガリーの民族衣装を2着購入して愛用していた私にとって、本場の踊りを観ることは必要不可欠でした。むしろ、何でこれまでハンガリーに来なかったんだろう、と思ったぐらいです。ハンガリーの踊りは非常にアクロバティックで、習得が難しく、体力も要ります。とても楽しみでしたが、期待通り素晴らしいステージでした。
ハンガリーは、私の好きな作曲家のひとり、バルトークの故郷です。バルトークは、ハンガリーの民族音楽の要素を作品に取り入れたクラシックの作曲家で、各地の民族音楽を収集して文化の保存に努めたことでも知られています。バルトークの作品のコンサートがあれば、ぜひ行きたかったのですが、ヨーロッパはサマーバケーションの季節、めぼしいクラシックのコンサートはやっていませんでした。残念。
続く