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海外の旅

海外の旅の話 その45 ブラチスラバの月


2025.07.29海外の旅


中欧の旅、最後の国はスロバキアです。以前はチェコスロバキア社会主義共和国という一つの国を構成していましたが、共産主義体制の崩壊を受けて、チェコと分離しています。一般にはあまりなじみがないかと思います。

 

しかし、高校三年生の音楽祭でクラス合唱の指揮者をした際、バルトーク作曲の男性4部合唱曲「5つのスロバキア民謡」を選び、東京外国語大学のチェコ語の先生に電話してスロバキア語の発音のレクチャーを受けようとした(が体よく断られた)ことのある私にとっては、避けて通ることなど考えられない国です。

 

スロバキアの首都、ブラチスラバに着きました。中世を感じさせる旧市街は、こじんまりとしていて、人通りも少なく、のんびりした印象を受けます。オーストリア・チェコ・ポーランド・ハンガリーと慌ただしく回って少々疲れていたこともあり、ブラチスラバではゆったり過ごすことにしました。

 

ということで、カフェで昼間からビールをいただきます。もちろんスロバキア産を頼みます。王道のラガー。美味しいです。時間がゆっくり流れていきます。

 

それはそれで良いのですが、何もしないのももったいない。ということで、ブラチスラバ城を訪れました。ブラチスラバ城は、ドナウ川のほとりの丘の上にそびえ立つ、ブラチスラバの象徴とも言えるお城です。ちょうど夏祭り中で、出店が並んでいます。民族楽器や民芸品などを見物しながらぶらぶらしていると、その日の夜、お城で民族舞踊のコンサートがある、ということがわかりました。当然、行くことにします。

 

いったんホテルに戻り、休憩して体力を回復させ、万全の態勢でお城に戻ります。コンサートは野外で開催され、芝生に並べられた座席で鑑賞します。演目は、現代を生きる若い男女が、中世にタイムスリップして民俗文化に触れ、再び現代に戻って自分たちの伝統の素晴らしさに気付く、といったものでした。セリフがないのでミュージカルっぽくはなく、基本的に踊りっぱなしで静かな演技が少ないのでバレエっぽくもない、不思議なショーでした。

 

演者は国立舞踊団のメンバー。バレエの基礎ができているのでしょう、動きが流麗で軽やか。さすがプロです。現代の衣装で踊るパートも、モダンバレエのようで良かったのですが、やはり民族衣装をまとい民族音楽に乗っての群舞は素晴らしく、圧巻でした。チケットも買ったのかどうか定かではなく、買ったとしてもたいした金額ではなかったはずです。民族舞踊や民族音楽が好きな私にとっては、まさに僥倖でした。

 

ショーが終わり、興奮冷めやらぬまま、ふと目をお城の外に向けます。城壁の下をドナウ川が黒く流れ、向こう岸には静かに町が、その奥には平原が広がり、夜空には満月が煌々と輝き、ブラチスラバ城を照らしています。ひんやりした風が穏やかに頬の火照りを冷ましてくれます。

 

この地で中世に生きていた人たちも、夏の夜風にあたりながら、大地と人の世を照らす満月を眺めていたことでしょう。私はこの夜、中世の月を見たのです。

 

 

続く

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