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海外の旅

海外の旅の話 その22 乾いた大地で


2023.06.02海外の旅


海外に行くときは、芸術や食といった土地の文化に触れたり、そこに暮らす人そのものに交わることに、強い興味を抱いてきて、実際そのようにしてきました。しかし、それを続けることにも少々疲れを感じてきていました。それで、たまには大自然に身を投げてみようと、オーストラリアに向かいました。

 

ケアンズ経由で、エアーズロック観光の拠点であるアリススプリングスに入ります。オーストラリアの奥地、アウトバックの砂漠の只中に交通の拠点として築かれ、今は観光拠点となっている近代的な町だからでしょうか、生活感はありません。乾いた熱い日差しが照りつけるなか、昼間から飲んだくれているアボリジニも見かけます。彼らは先住民族として保護されており、働かなくても生きていけると聞きました。荒れることもなく、おとなしく飲んでいるだけではありますが、見ていて心が痛みます。

 

マウントオルガ(現地の呼び名はカタ・ジュタ)に向かいます。荒野に忽然と、いくつもの巨大な岩が現れます。大きいもので高さが数百メートルもあります。巨大な岩が「ある」ことと、周囲に何も「ない」ことの、圧倒的なコントラスト。夕日に照らされて岩肌が赤く燃えている視覚の情報と、岩々の隙間を吹き抜けてくる風が涼しい肌の感覚とのギャップ。心を奪われます。

 

翌日はエアーズロック(現地の呼び名はウルル)。カタ・ジュタの岩たちを全部くっつけたような、本当に巨大な一枚岩が、どーんと横たわっています。アボリジニが先祖の教えを伝えるために様々な壁画を遺した、聖なる場所です。ガイドの説明では、上に登ることもできるけれど、聖なる場所なのでなるべく登らないで欲しい、とのこと。もちろん登らず、その代わり周囲を歩くことにしました。いくつか壁画があり、それぞれの意味を教えてもらいます。残念ながら内容は忘れてしまいましたが、プリミティブな線が好きな私にとって、アボリジニの絵柄はとても親しみやすいものでした。

 

アリススプリングスを後にして、ダーウィンに向かいます。ダーウィンでは、ヘリコプターに乗って上空から自然保護区を眺めました。プロペラの音が非常に大きく、耳を保護するためのヘッドホンもたいして効かず、とにかくうるさい。操縦士さんは大変でしょう。離陸時にふわっと浮き、着陸時にふわっと接地する感覚が新鮮。地表からさほど高くない空中を飛び回り、手を伸ばせば届きそうな木々を眺めていると、鳥のような気分になります。

 

スカイダイビングも試すべく、セスナ機に乗り込みました。セスナ機は乗降口を閉めることなく離陸します。機内には強風がバンバン吹き込んできます。寒さに震えます。気圧が下がり耳にきます。よく考えずにチャレンジしたものの、これは失敗したと後悔。しかし時すでに遅し。上空で乗降口に腰掛けるよう促され、足を機外に出してぶらぶらさせます。怖いと思う間もなく、タンデムのインストラクターが自分ごと私の身体を空中に押し出します。すごい勢いで私の顔面を襲う風。目を保護するためゴーグルは付けていますが、薄いプラスチック製でなんとも心許なく、少しでも顔を動かすと風圧で吹っ飛ばされそうです。必死に顔を地面に向けます。そして、呼吸が難しい。空気が口から押し入ってくる一方、その勢いに負けて息を吐けない感じです。魚のように口をパクパクさせて空気を取り込みます。見えている地表の風景はあまり変化を感じないので、落下しているのかどうかよくわかりません。悪戦苦闘しているうちに、段々と地面が近づいてきます。と思う間もなく、ガクンという衝撃とともに落下停止。パラシュートが開きました。急にゆっくりになって、空中を漂います。これで死なずに済んだ、と一安心です。いよいよ着陸です。足を上げるよう事前に指導されていましたが、うまくバランスが取れません。着地の瞬間。思った以上にスピードが出ています。踵を思い切り地面に打ちつけました。激しい痛みが走ります。やべ、折れたかも。しばらくは足首から先が痺れていましたが、大丈夫、折れていませんでした。結論:自分はまあ1回でいいかな。

 

ユースホステルでは、オージーとコミュニケーションを試みましたが、想像以上に訛りがひどく、何を言っているのかさっぱりわかりません。やむなく、食堂にいた韓国人旅行者たちに相手を変えます。お互いに英語は流暢ではなく、その分安心しておしゃべりできます。一人が持っていた電子手帳を見せてもらうと、ハングルの子音と母音を組み合わせて入力する仕組みになっています。面白いので、しばらく借りて遊ばせてもらいました。アラビア語とかタイ語とかでもワープロソフトあるのでしょうが、作るの大変でしょうね。もっとも、日本語を母語としない人から見ると、日本のかな入力とか漢字への変換とかも大変なものに映るのでしょう。

 

ダーウィン郊外には、広大なカカドゥ国立公園があります。ここでキャンプツアーに参加。かなりワイルドなツアーで、巨岩の隙間に入り込んで背中と手で身体を支えながら上り下りして突破したり、数百メートル切れ落ちた断崖の突端で記念写真を撮ったり、滝壺に飛び込んだりしながら、徒歩で進みます。ワニの泳ぐ川でクルーズもしました。夕方には各自テントを張り、食事もみんな協力して作ります。参加者にはドイツ人、フランス人、アメリカ人がいました。ドイツ人はすべてにおいて几帳面。フランス人は集合時間を守らず作業も手抜き。アメリカ人は普通でした。夕食後、焚火を囲みながら談笑します。ドイツ人が紹介してくれた遊びがみんなの気に入り、オーストラリアワインも投入されて、おおいに盛り上がりました。翌日は巨大なアリ塚の林立する荒野を歩きます。アリ塚に触れようとして、几帳面なドイツ人に叱られます。途中、エリマキトカゲに会いました。思ったより身体が大きく、手足の爪も長く、引っかかれたら間違いなく怪我をしそうです。

 

ツアーは無事終了しましたが、少々刺激が足りなかったので、急流をカヌーで下るツアーに参加。日本人旅行者とペアになりました。気象庁の職員で、女性初の南極探検隊員を目指して身体を鍛えているとのこと。たしかに生き残る力が漲っている感じで、頼りになりそうです。そんな日本人ペアですが、途中の激流であっさり、岩の隙間に逆向きに挟まってしまいました。私の操舵が下手だからです。ありゃやっちゃったな、さてどうやって脱出しようかな、かなり流れが強いな、などと呑気に思っていると、ガイドが血相を変えて近寄ってきて、フルパワーで我々の艇を救出します。その表情を見て、どうやら非常に危険な状態だったらしいことに気付きます。無事で良かった。。

 

東京育ちで、子どものころ夏に自然の中で遊んだ経験があまりなかった私は、乾いた大地でめいっぱいトレッキングや川下りをして、子どもの頃の夏休みを取り返したような気分になりました。あー遊び尽くした、ひとつさっぱりして帰ろうかなと思い、そのへんの散髪屋で、だいぶ伸びていた髪を切りました。すると翌日の出国時、女性審査官が、私の顔とパスポートの写真を何回も見比べて、しきりに首をかしげるではありませんか。たしかに、髪は思いっきり短くなっていて、日焼けもかなりしています。自分から見ても別人です。しかし、他に私が私であることを証明するものはありません。すみません昨日散髪したばかりなんです、などと必死に釈明すると、彼女は笑顔でOKをくれました。私が出会ったオージーはみな優しい人で良かったです。

 

 

続く

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