グラナダを後にして、バルセロナに向かいます。バルセロナはフランス国境に近く、地中海に面したカタルーニャ州の中心で、サグラダファミリアを初めとするアントニオ・ガウディの建築物で知られる、文化・芸術の都です。
バルセロナに来たからには、まずはサグラダファミリアを観ないと話が始まりません。生誕の門や聖堂内部の装飾に圧倒されたあと、尖塔を上ります。バルセロナの街が一望できて素晴らしい。下りは螺旋階段を歩きます。この階段、見下ろすとカタツムリのように見えるのですが、見下ろせる、というのは、階段の内側の壁が低く、手すりがないからです。なので、とても怖いです。しかも狭いので、高所恐怖症や閉所恐怖症の人には厳しいかもしれません。サグラダファミリアは当時、完成まで100年以上かかると言われていましたが、その後建設のペースはだいぶ上がっているようです。私が死ぬまでに完成するかわかりませんが、完成前であっても、いつか再訪したいと思いました。
ガウディが設計したグエル公園にも行きました。グエル公園で有名なのは、カラフルな陶器の破片を貼り付けて装飾したトカゲのオブジェで、トカゲの口が噴水になっています。そういった風変わりなデザインのオブジェがいくつかあり、不思議な空間となっています。もともと分譲住宅地として計画されたようですが、前衛的過ぎたのか、家を買ったのはガウディと発注者グエル伯爵だけだったそうです。そのガウディの家も現存します。お菓子の家みたいな感じがしました。
ガウディの他の作品では、カサ・ミラ、カサ・バトリョといった住宅にも行きました。住宅と言うより、美術館、あるいはそれ自体が彫刻作品、という感じです。でも、カサ・ミラは集合住宅なので、今でも居住者がいるようです。住めるものなら住んでみたいですね。
バルセロナには、ガウディ作品以外にも有名な建築物があります。その代表は、モンタネールが手掛けた、カタルーニャ音楽堂です。花柄のモザイク、緻密な彫刻など、装飾がとにかく豪華。とくにすごいのが、立体的なステンドグラスで作られたシャンデリアです。このコンサートホールを建てた時代のバルセロナが、いかに経済的・文化的に繁栄していたのか、容易に想像できます。贅沢な空間でした。
ピカソ美術館にも行きました。ピカソは、スペイン南部のマラガの生まれですが、10代半ばから20歳までバルセロナに住んでいたそうです。ピカソ美術館には、その名のとおり、ピカソの作品が数多く収められています。私にはピカソの作品の良さはよくわからないのですが、作家ゆかりの土地でその作品に触れると、他所の美術館に所蔵されている作品を観るのとは違った味わいがあります。
バルセロナを出て北東に進むと、フランス国境近くに、シュールレアリスムの巨匠であるサルバドール・ダリの故郷、フィゲラスがあります。フィゲラスにある、ダリの作品を集めたダリ美術館を訪ねました。ダリ美術館は、見た目からしてものすごくダリっぽくて奇抜です。収蔵作品もダリばかりなので、もちろん奇抜。シュールレアリスムの作風を確立した以降のダリの画法は、非常に緻密で、かつ、なぜここにこれが、と言いたくなるようなモチーフが、突拍子もなく様々な場所に描き込まれています。なので、ひとつの作品をじっくり鑑賞しようとすると、何が描かれているのか見るだけでも、けっこうな時間と労力が必要です。ダリは好きな作家ですが、これだけ一度に観ると、さすがに疲れました。
ダリ美術館の隣には、ダリがデザインした宝飾品の博物館があります。金・銀・ダイヤモンドなどをふんだんに用いたアクセサリーですので、綺麗なのですが、そこはダリのデザイン。美しくも奇妙な作品ばかりです。とくに、たくさんのルビーをちりばめた心臓の、たぶんブローチ。実際に脈動しています。ルビーの数だけからしてもすごい値段でしょうに、ダリのブランド価値が上乗せされた挙句のこのデザイン。いつどこに着けていけるのかな、そもそも買う人いるのかな、なんて思いながら観ました。
バルセロナの北西の郊外にある、モンセラット修道院も訪ねました。モンセラット修道院は、奇岩の多い険しい崖に囲まれた山中にあるので、ロープウェイか登山鉄道でアクセスします。カタルーニャ州の守護聖母である黒いマリア像が祀られていることで有名です。多くの巡礼者が静かに参拝しているのに混じって、修道士たちが静かに行き交っています。いくつもの建築物があるのにとても静謐な雰囲気で、広々と下界が見渡せることもあり、天上界にいるような気分になります。多くの芸術作品に触れて疲れた精神が、少し鎮められたように感じました。
カタルーニャの多くの素晴らしい芸術に触れて、この旅は終わりました。自分がバルセロナに生まれ育ったとしたら、このような精神的な豊かさの中で生きていることに、強い誇りを感じることでしょう。素敵な街でした。
続く