ベトナムの後、今度は真逆のヨーロッパの空気を吸いたくなり、それまで縁がなかった中欧諸国を巡ることにしました。
クラシック音楽好きの私として、外せないのは、オーストリアの首都にして音楽の都、ウィーンです。ここでコンサートを聴きたい。しかも、有名なホールで。
ひとつは、ウィーン楽友協会(ムジークフェライン)大ホール。
内装の豪華さと音響の素晴らしさで有名で、ウィーンフィルのニューイヤーコンサートの会場になっています。ここは、日本のコンサートホールによくある、扇形で手前から奥に向けて席が高くなっていく構造ではなく、テレビで見る限り、シンプルな長方形で、床面は平たい構造です。これでどうしてそんなに音響がいいんだろう(いろいろ設計を工夫しているホールは何なんだろう)というのが長年の疑問で、ぜひ実際の演奏を聴いて確かめたい、と思っていました。また、私は学生時代に、楽友協会の楽屋のハンガーをお土産でいただき、一番のお気に入りの服を掛けるために愛用していたので、そういった思い入れもありました。
もうひとつは、ウィーン国立歌劇場。世界三大オペラ劇場のひとつに数えられています。
高校生のとき、ウィーン国立歌劇場が日本に来て、上野の東京文化会館で公演をしました。
演目はいくつかあって、リヒャルト・シュトラウスの「ばらの騎士」、モーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」など。友人と誘い合って行くことにしたのですが、私はリヒャルト・シュトラウス好きで、友人はモーツァルト好き。高校生でお金のない我々には、両方行くという選択肢はありません。熟慮の末、友人に折れていただき、「ばらの騎士」を観ました。比較的安い(それでも15000円ぐらいしたはず)4階席を購入したため、ステージはやや遠めでしたが、これでもか、と言わんばかりのヨーロッパ宮廷文化てんこ盛り、豪華絢爛な舞台と、煌びやかなオーケストラの音色に、普段オペラが得意でない私も大満足でした。リヒャルト・シュトラウスがそれほど好きではないはずの友人も、楽しんでくれていたことと思いますが、そうでもなかったのであれば、今更ながら、心より謝罪いたします。
ということで、ウィーン到着後、さっそくツーリストインフォメーションでコンサート情報を漁りました。しかし、夏休み期間中だったのがまずかったのか、ムジークフェラインでも、国立歌劇場でも、コンサートの予定がありません。
なんてこったい。
ウィーン市内のその他のホールでも、これといった催し物は見当たりません。
今にして思えば、日本からネットである程度調べることができたのでしょうが、宿ですら当日現地で探すアナログな私には、そういう発想はありませんでした。
おおいに落胆した私ですが、気を取り直して、路面電車を駆使してウィーン市内を散策します。バイオリンを弾くワルツ王ヨハン・シュトラウス2世の黄金色の銅像が、市内中心部の公園で輝いています。オーストリアの第2の国歌と呼ばれる「美しき青きドナウ」の作曲者であり、国民的な人気を有していることが見てとれます。ウィーン市内を流れるドナウ川の実物は、美しいか、青いか、と言われると、何とも答えにくい感じではありましたが、昔は美しくて青かったのでしょう。
ドイツ南部に端を発し、ウィーン、ブラチスラバ、ブダペスト、ベオグラードといった中部ヨーロッパの主要都市を流れ、黒海に注ぐドナウ川。ヨーロッパにおける内陸水運の重要性を体現するように貨物船が行き交う様は、まさに国際河川。日本では得られない感覚です。
ヨハン・シュトラウス作曲のワルツには、「ウィーンの森の物語」もあります。であれば、ウィーンの森を散策しない手はありません。路面電車とバスを乗り継いで、郊外の森に出かけます。人影のほとんどない針葉樹林を歩いていると、静けさしかありません。ウィーン自体、喧騒にあふれる人工的な大都市という感じはしませんが、郊外の森はさらに静か。かつてはハプスブルク家のオーストリア帝国の首都だった街は、もともと静かだったのかもしれません。「ハプスブルク」「マリア・テレジア」といった語感から、なんとなくいかついイメージを持っていたのですが、全然違いました。
ウィーンのワイン酒場は、ホイリゲと言います。森の散策の帰り道、ちらほらと見かけたので、まだ夕方にもなっていませんでしたが、寄ってみました。オーストリアワインはほとんど飲んだことがなかったのですが、ドイツワインのイメージに近いかなと思い、白を頼みます。グラスにたっぷり注がれてきました。やや酸味があり、あっさりした若い感じの飲み口。いくらでも飲めそうです。飲み過ぎ注意ですね。
ウィンナーソーセージも食べました。肉々しくてジューシー。挽肉料理好きの私には、ストライクど真ん中です。これに合わせるのは、ワインもいいですが、やはりビールですね。麦の香りの強いビールを喉に流し込みながら、ヨーロッパに来ていることを強く感じました。
続く