オーストリアから陸路でチェコに入り、チェスキークルムロフを目指します。
チェスキークルムロフは、チェコ南部の街で、ヨーロッパ中世の面影が色濃く残る旧市街が有名です。ここを歩いていると、ヨーロッパの方が日本よりよほど、古い町並みを大事に保存しているな、と感じます。
旧市街は鉄道駅から少し離れており、歩くと少々疲れます。ただでさえ乾燥しているヨーロッパで、夏場の真っ昼間に長いこと歩くと、だいぶ喉が渇きます。
そこで、ビール。
チェコと言えば、国民一人当たりのビール消費量が世界有数のビール大国。さっそく地ビールをいただきます。黄金色に輝くラガーを喉に流し込みます。うまい。最高です。あっという間になくなりました。種類を変えてもう一杯。これもうまい。最高です。
気分が良くなった私は、観光もそこそこに、首都プラハに急ぎます。目的は、もちろん夕方の一杯。
プラハには、地元の方が通う古くからのビアホールが、いくつかあります。そのうちのひとつに入ります。名前は覚えておらず、内装もあまり印象に残っていません。ただ、ビアサーバーがあり、透明で肉厚なガラスのジョッキが並んでいて、みなさんジョッキに生ビールを注いでもらい、席につきます。メニューは、私が見た限り、ありません。おつまみもなく、生ビールだけ。ビールの種類もひとつだけ。注文の際に交わす言葉もとくになく、ジョッキを渡してビールが注がれ、それを受け取るだけ。なんという潔さ。
ちょうど終業後の時間で、常連客とおぼしき地元の大人たちが、ぞろぞろと入店して生ビールを注いでもらっていきます。顔見知りに会うと挨拶して席について歓談し、飲み干したらだいたい店を出て行きます。どうやら、ここは最初の一杯を飲むお店で、みなさんジョッキを飲み干したら、二軒目に進むか食事をしに行くか。長居は無用のようです。カフェでコーヒーを飲むよりも滞在時間が短いように感じます。こういうビールとの付き合い方があるのか、と目からうろこです。年配の方が多く、女性もけっこういます。若い人はほぼいません。恰幅の良いご婦人がジョッキをクイッと空けて颯爽と立ち去る姿は、実に格好いいものです。
その晩はハシゴもして食事もしたはずですが、最初のお店の印象があまりにも強く、それ以降のお店の記憶がありません。ただ、夜も更けて静かになったプラハの街の石畳を、オレンジ色の街灯の暗い灯りを頼りに一人歩いていて、時を告げる鐘の音が鳴り響いたそのとき、この街はなんと美しいんだろう、どうかこの街がこのまま変わりませんように、と願ったのは覚えています。
翌日は、プラハ城、カレル橋などを観光し、昼間のプラハも堪能しました。残念なのは、プラハも夏休みでこれといったコンサートがなく、私の好きなドボルザークの音楽やチェコフィルの演奏に触れることができなかったことです。別の季節に出直さないといけませんね。
続く