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海外の旅

海外の旅の話 その48 動物の水飲み場


2025.11.29海外の旅


石垣島に住み始めてしばらく経つと、一年中高い水準にある湿気が、しんどく感じるようになりました。また、四方を海に囲まれた環境に、閉塞感を抱くようにもなりました。そして、湿気がない、水平線が見えない、そんな場所に身を置きたい、という衝動に突き動かされ、アフリカに行くことを考え始めました。選んだのは、アフリカ大陸南西部に位置する、ナミブ砂漠の広がる国、ナミビアでした。

 

私は旅行には大抵一人で行きます。現地で予定外の場所に行きたくなったり、予定していた場所に行く気がなくなったり、そもそも予定を細かく立てずに行って現地で得た情報をもとに予定を立てたりすることが多いので、一人の方がやりやすいし、実際一人で何とかしてきました。

 

しかしナミビアは国土の大半が砂漠地帯のうえ、面積の割に人口は非常に少ないです。公共交通機関はあまりなさそうだし、ガーナのような人臭さも感じられそうにありません。また、そもそも湿気がなくて水平線が見えない環境を求めて砂漠の国に行くんですから、どっぷり砂漠に浸りたい、と思いました。とは言え、初めて行くアフリカの国で、一人でレンタカーを借りて砂漠を駆け巡るのは、いくらなんでも無謀過ぎます。

 

それで、私としては珍しく、ツアーに参加することにして、いろいろ探しました。すると、あるツアーに、野生動物の集まる国立公園でキャンプする、という行程に入っていました。アフリカと言えば野生動物。サファリのツアーはいくつもありましたが、キャンプはワイルドです。上等なロッジに泊ってのサファリも悪くはないですが、そこまで野生動物に興味があるわけでもありません。ナミビアは、ケニアやタンザニアよりも野生動物を見られる確率が低い、ということも知りました。であれば、キャンプを選びますよね。

 

香港・ヨハネスブルクを経由して、ナミビアの首都ウィントフックに降り立ちます。

ウィントフックは、こじんまりとした街でした。第一次世界大戦まではドイツ領南西アフリカだったこともあり、町並みはどことなくドイツっぽい、落ち着いた感じです。原色に塗りたくった掘っ立て小屋が立ち並ぶような、途上国っぽいごちゃごちゃした空気は感じませんでした。どこか観光したのでしょうが、私の記憶からは抜け落ちています。

 

ピックアップトラックに乗り込み、国立公園を目指します。市街地を離れると、すぐに荒涼とした大地が広がります。おー砂漠だ、などと思ったのは早計で、このあたりはまだ道がありました。道は、大地のうねりに素直に従い、丘を登ったり下りたりしています。そこをかなりのスピードで走り、ろくにブレーキもかけないので、下り坂が上り坂に転じる窪みのあたりでは、けっこうな衝撃を受けます。ヘルニア持ちの人はまず間違いなく症状を悪化させます。これシャフト折れないかな、大丈夫かな、こんな所でシャフト折れたらどうしようもないじゃん、と心配になります。

 

やがて、道がなくなり、どれぐらい前に通ったかわからない先行車両のタイヤの跡を辿るように、前に進みます。途中、スタックしないよう、タイヤの空気を抜きます。しかし、やがてスタック。砂に沈んだタイヤの下に板を差し込み、ウワンウワンさせながら、砂からの脱出を試みます。我々ツアー参加者は、車を下りて、周囲から不安な眼差しで見守ります。ようやく脱出。ドライバーは平然としています。慣れているんでしょうね。

 

ガイドは、アフリカ旅行の経験豊富な日本人男性。気さくな方で、終始にこやかに接してくれました。その彼が車内でにこやかに、注意事項を伝えます。いわく。サファリでは、車窓から手を出すと、野生動物が餌だと思って喰いついてきます。なので、ツアーでは、絶対に車窓から手を出さないよう、くどいぐらい注意しています。あるツアーで、いつものように注意していました。にもかかわらず、〇〇人観光客が車窓から手を出していました。すると、後ろからライオンが走って来ました。そして、喰いつかれました。みなさん、絶対に車窓から手を出さないでくださいね。

いやいや、出しませんって。

 

国立公園に入りました。しかし風景は何も変わらず、ひたすら荒野です。すると突然、キリンがゆったりと走って行くのが見えました。近づくと、最初の印象とはまったく異なり、かなりのスピードです。キリンは全体的に大きく、脚も長いので、動きはゆったり見えますが、一歩が長いので、結果スピードは速いんです。追いかけられたら絶対にアウトです。

 

カバも、あんなに図体がでかくて足が短いのに、時速40㎞ぐらいで走ることができるとのこと。しかも案外短気で、敵認定されることは珍しくないとのこと。こちらも怒らせたら、車を追いかけてきて、体当たりしてくる恐れがあります。そうなったら絶対にアウトです。サファリはワイルドです。当たり前ですが。

 

キャンプ場に着きました。ガイドがにこやかに、注意事項を伝えてくれます。いわく。キャンプ場の目の前の池は、野生動物の水飲み場になっています。夜行性の動物が多いので、動物が水を飲む様子が見たければ、夜に周囲のベンチで見てください。ただし先日、そこのベンチで〇〇人が寝てしまったようで、何らかの肉食獣に食べられました。みなさん、絶対にベンチで寝ないでくださいね。

いやいや、寝ませんって。

 

またいわく。トイレはあっちにあります。ただし、野生動物は、みなさんのテントの周辺にもやってきます。私も以前他所で、夜中にテントを出ようとしたら、たまたまゾウがいて、危うく踏まれそうになったことがあります。夜中にトイレに行きたくなっても、必ずガイドを呼んでください。絶対に一人でテントを出ないでくださいね。

いやいや、トイレぐらい我慢しますって。

 

やがて日は沈み、見上げると満天の星空。人生で一番というぐらい、星がたくさん見えます。周囲に人工的な明かりがないので地上がものすごく暗いのと、空気中の水分が非常に少なくて空気がものすごく澄んでいるのと、両方の効果なのでしょう。この星空も楽しみにしていた私は、旅行前に高倍率の双眼鏡を購入し、持参していました。さっそく取り出して空を眺めます。いや、ものすごい星の数。空全部が星、と言っても過言ではないぐらい。星が多過ぎて、何の星座が見えているのか、さっぱりわかりません。他のメンバーにも見てもらうと、皆さん感嘆の声を上げます。持って来てよかった。

 

そんな星空の下、バーベキューを楽しみます。バーべキューと言えばビールです。乾ききった喉を潤し、肉にもよく合います。しかし、夜中~トイレ~我慢という指令がインプットされていた私は、水分摂取を控えめにせざるを得ません。一方、皆さん、まあまあ飲んでます。大丈夫かな。

 

食後、後片付けを済ませ、解散、就寝です。移動の疲れもあり、すんなり眠りに就きました。が、何時ごろでしょうか、目が覚めると、たしかに私のテントの近くで、聞いたことのない動物の鳴き声が聞こえます。幸い、膀胱の空き容量には余裕がありました。全身全霊を傾けて、再びの眠りに就きます。

 

翌朝の点呼。私たちツアーからの脱落者は、出ませんでした。ほんと、よかった。

 

 

続く

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