まだ満天の星が瞬き、ヘッドランプがなくても手元が少しは見えるなか、身支度を整えます。キャンプ場を出発し、目指すは砂丘。空が白みかけるなか、道なき道をひた走ります。砂丘の向こうの空が、美しく朝焼けてきます。オリックスでしょうか、鹿に似た動物が遠くを駆けて行きます。
車が入れる限界まで来ると、降りて歩くよう指示が出ます。寒いです。前日の移動中はあんなに暑かったのに。砂漠の気温の日格差が大きいことを実感します。砂面は朝日を浴びて赤褐色に染まっています。まばらに生えた草は、枯れているのかいないのか。一面に広がる風紋がきれいです。
手近な砂丘に取り付きます。一歩一歩が砂に埋もれ、思うように進めません。靴の中に砂が大量に入って来て、心地悪くなります。靴を脱ぎ、靴下も脱ぎ、裸足で進みます。くるぶしまで砂に埋もれます。砂はキンキンに冷えています。昼間の灼熱の太陽からたっぷり受け取ったはずの熱は、夜中にすべて大気に放出されたわけです。山中の小川を渡渉しているようで、頭がキーンとなります。傾斜もきつく、体力を奪われます。足元を見つめながら、歩みを進めます。
ようやく稜線に辿り着きました。急に遠方の景色が広がります。見渡す限りうねうねと連なる砂丘。ほんの少し前と打って変わって、白みがかった黄褐色の光を放っています。見たことのない風景、異空間です。しかし、のんびり感動もしていられません。妨げるのは、稜線に出た途端、非常に強く吹き荒れる風。砂丘の表面を大粒の砂が大量に吹き飛ばされていきます。砂丘は移動していく、ということは知っていましたが、こういうことなのかと腑に落ちます。大量の砂粒は顔面を襲い、痛いし、目を開けているのも一苦労です。くるぶしまで包む砂は、相変わらずキンキンに冷えています。風が強い分、気化熱を奪われてさらに冷たいように感じます。
風景に満足したのと、強風に耐えきれなくなったのとで、そそくさと砂丘を下ります。下りは楽です。だいぶ日が高くなってきました。太陽光の熱がありがたいです。心身に余裕が出てきたので、辺りを観察します。生き物が歩き回った足跡がいくつも見えます。そのひとつを追いかけていくと、フンコロガシでしょうか、小さな昆虫がいました。何の種類かわかりませんが、砂面を滑るように走る小さな昆虫もいました。こんな場所で、何を食べて生きているのでしょう。どこでどうやって寝るのでしょう。巣なんて作れるのかな。作ってもどこだかわからなくなりそう。
だいぶ暑くなってきました。日差しも眩しいです。行きは暗くて見えなかっただけなのか、いろんなものが目に入ります。葉っぱのない灌木が立っています。立っているということは、生きているということなのでしょう。でも、水分はどこから来て、どうやって摂取しているのでしょうか。不思議です。地面は乾燥でひび割れています。たまに雨が降ったときの川床なのでしょうか。
車に乗り込み、荒野をひた走ります。遠くの岩盤には、斜めに地層が重なっています。何億年前に出来た地形なのでしょうか。ロマンを感じます。もっと地学を勉強しておけばよかった、と少々後悔。
月面世界と呼ばれる場所に着きました。でこぼこした低い砂色の岩山が、地平線の彼方まで連なっていて、なるほど月面を思わせます。アポロ11号は本当は月面に着陸しておらず、ここで着陸した体のロケをして放送した、という都市伝説があるとか。そういう話が出てきてもおかしくはないな、と思えるぐらい不思議な風景でした。
道すがら、ローズクオーツの原石が、そこら中にごろごろ転がっていました。パワーストーンとして日本でも売られている、ピンク色の天然石です。少しなら持ってってもいいよ、と言われたので、記念にひとつだけ持ち帰りました。原石なのであまり透き通っておらず、水晶っぽさはそこまでないですが、それでも十分綺麗でした。
ウェルウィッチアという植物も見ました。「奇想天外」という名もあるこの植物、このあたりの砂漠にしか生息していないそうです。砂地にへばりついた昆布のような見た目ですが、ものすごく長命で、樹齢1000年以上にもなるとか。こんな過酷な環境で、よくそんなに命永らえるものです。
アンゴラ国境近くのヒンバ族の集落も訪ねました。ヒンバ族の女性は、髪の毛を含めて全身を赤く染めていて、インパクトがあります。染めるのも大変ですが、今調べたら、入浴はおろか、水で体を洗い流すこともせず、その代わり、煙を浴びて清潔を保っているそうです。いろいろ大変です。でもそれが文化なんですよね。世界には知らないことがいっぱいあります。
動物は、キリン以外の、ライオン、カバといったメジャーなものは見られませんでしたが、ガラガラヘビ、カメレオンといった、アフリカっぽい生き物は見ました。海岸線の砂漠をボートで鑑賞した際には、アザラシが船尾に飛び乗ってきて、餌をねだってきたりしました。
ナミビアでは、地元住民と交わってローカルな雰囲気を味わうことはほぼありませんでしたが、そのぶん自然にどっぷり浸かりました。ツアーのメンバーも、途上国の旅に慣れていて、神経質なことは言わない方が多く、過ごしやすかったです。
帰路南アフリカ・ヨハネスブルクの空港で、トランジットの合間、暇つぶしに立ち寄った土産物店で、天然石の置物を見つけました。道中で拾ったローズクオーツの縁と思い、いくつか購入しました。石なので、だいぶ重たかったのですが、何とか自宅まで破損せずに持ち帰ることができました。ただ、それぞれに効能というか、何かいいことがあるはずなのですが、いいことの中身を知らずに購入したので、いいことがあったかどうかはわかりません。
続く